『聖戦士ダンバイン』OP・EDシンガー MIQ(MIO)さんインタビュー(前編)
2024年5月に実験動画『AURA BATTLER DUNBINE SIDE L』が公開され、改めて『聖戦士ダンバイン』の主題歌である『ダンバインとぶ』とエンディング曲の『みえるだろうバイストン・ウェル』が大きな注目を集めた。今回は、現在でも高い人気を誇るその楽曲たちを歌い上げたシンガーのMIQさんにインタビューを敢行。前編では、楽曲との出会いや思い出などを語ってもらった。
――2023年に『聖戦士ダンバイン』が40周年を迎えました。MIQさんにとっても思い入れがある作品だと思いますが、まず40周年という言葉を聞いてどのような感想をもたれましたか?
MIQ 40年という月日の流れが本当に速すぎますよね。私にとって『ダンバイン』は未だに新鮮なままです。もう40年経ったとか、自分が年を取ったとかそういう気持ちはなくて、フレッシュなまま存在しているというか。私が歌わせていただいた『ダンバインとぶ』と『みえるだろうバイストン・ウェル』は、楽曲の素晴らしさといい、当時の映像画面の美しさといい、これは奇跡かと思うくらい素敵だと思っています。物語のほうも新鮮で、「これ、40年前に作られた話なのか」という感じはありますね。今だったら時空を越えて別世界にいくような作品はたくさんありますが、あの頃はそんな作品は無かったので。
――そうですね。いわゆる、近年流行っている「異世界転生もの」、他の世界に行ったら自分がもの凄く強くて、最高の戦士になるというお話の先駆け的なところはありますね。
MIQ そうなんですよね。そういう面では、監督の富野由悠季さんは預言者なのかと、今となってはすごく不思議な感じがします。当時のことで印象に残っているのが、『ダンバイン』を観ている周りの人たちからいろいろと言われたことですね。「展開が難しい」、「これはどう収拾がつくの?」と言われたんです。もの凄く面白いんだけど突っ走り方が普通じゃなくて、中世のような世界観かと思っていたら、いきなり現在の東京に移動したりとか、観ている側がついていけないような展開で、そのワクワク感があったからそんな感じのことを言われたんだと思うんです。「この先、どうなるの?」ってさっぱり先が読めないんだけど、毎回エンディングで『見えるだろうバイストン・ウェル』が流れるのが、なんか「大丈夫だよ」と言われるような安心感があって。そんな普遍的な感じが良かったと思っています。
――『ダンバインとぶ』は、前作の『戦闘メカ ザブングル』の挿入歌や劇場版『ザブングルグラフィティ』のエンディングテーマに続く形で依頼されたという形でしょうか?
MIQ 当時、バンドを組んでいたんですが、そのバンド仲間がすでにアニメーションの挿入歌を歌っていて、「面白そうだな」って思っていたんです。当時は個人のシンガーではなく、バンドでデビューしようとしていた時だったんですが、私のところにもアニメーションの挿入歌の話が来まして。引き受けた理由も「一生に1枚くらい、MIOの名前でレコードが出せたら親も喜ぶな」くらいの感じだったんです。だから、『ザブングル』の時も気負わずに引き受けたんですが、その後には主題歌として『ダンバインとぶ』の依頼を頂いて。だから、すごく自然な感じでやらせていただきました。
――そんな経緯があったんですね。
MIQ 主題歌をお任せいただけるのは凄く嬉しかったです。嬉しかったけど、私自身がアニメ業界のことはよくわかっていなくて。だからあまり肩肘張らずに、自然な感じで歌うことができた。当時はバンドでボーカルをやりながら、まさに二足のわらじという形で歌わせてもらいました。実は、『ダンバイン』に関しては、もうひとつ忘れられないことがあるんです。主題歌を担当させてもらうことが決まった後に、番組の記者会見があって、それに出ることになりまして。やっぱりアニメ業界のことはよく知らないから、私とマネージャーは、始まるといわれたジャストの時間には記者会見はスタートしないと思っていて、30分ほど遅刻してしまったんです。それも、会場へはマネージャーにバイクの後ろに乗せてもらって移動するような形で。そして、会場に入ったら、富野さんをはじめ、サンライズの偉い方々が並んで座っていたんですね。そんな大々的なものだとは思っていなくて、「私、何か間違えたところに来たのかな?」って思うくらい凄いことになっていて。その時、富野さんからは「これ、二度とやったら仕事なくなるからね」って優しく注意されました(笑)。
――それは一生心に残りますね。
MIQ まさか、そんなに大々的なものだとは本当に知らなくて。ヘルメットを持って会見場に入っていくという感じでしたから。取材の方もたくさんいらしていて。本当に驚きましたね。
――時期的には『機動戦士ガンダム』の劇場版が大ヒットした後で、業界的には富野監督が手掛けるサンライズの新作アニメとなれば、大きく注目されてもおかしくない感じだったんだと思います。ちなみに、『ダンバイン』の楽曲を初めて聞いた時にはどんな感想をもたれましたか?
MIQ 楽曲そのものはカラオケの音源もいただいていたんだと思います。演奏が壮大なフルオーケストレーションで、お金もかかっているなというのがわかったので、作品としてすごく期待されているというのはなんとなく感じました。曲も格好良かったですし、覚えやすくて、あっという間に覚えた印象がありますね。
――『ザブングル』の挿入歌は、アニメの曲というよりは、普通のポップスとしても違和感はないですが、『ダンバインとぶ』は、まさにアニメの楽曲という感じがありますね。
MIQ そうなんですよ。まさに「王道」という感じの主題歌ですよね。そこが私は大好きで、最近はそういう曲が少ないので寂しいですね。王道感が素敵で、格好いい。
――みんなで歌うと盛り上がる曲ですよね。作品のタイトルで、主人公メカの名前もきちんと歌詞に盛り込まれて、サビの「アタック! アタック!」で大合唱するような感じがありますね。
MIQ そういう叫ぶところもいいんですよね。あの時代に私が歌わせて貰えたのは本当にラッキーだったと思います。鼓舞していって、本気でうわーっと命が燃えてくるような歌詞と楽曲なんですよね。ライブでもよく歌いますが、すごく盛り上がります。それも日本だけじゃなくて、海外のアニメのコンベンションなんかで歌ってもすごく反応がありますね。世界中、どこで歌ってもみんな「アタック! アタック!」って声を出してくれて。他にもたくさん素敵な曲を歌わせていただきましたが、私の曲の中で一番盛り上がるのは『ダンバインとぶ』だという感じはありますね。
<後編>に続く